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世界一美しい本を作る男、ゲルハルト・シュタイデル

「世界一美しい本を作る」と称されるドイツの小さな出版社シュタイデル


本の企画、デザイン、印刷、製本まで全てを同社で手がける


クライアントは、シャネルのカール・ラガーフェルド

アメリカを代表する写真家ロバート・フランク

『ブリキの太鼓』の著者ギュンター・グラス

マーティン・パーにロバート・アダムスと、そうそうたる顔ぶれ


一筋縄ではいかない芸術家たちから絶対的な信頼を寄せられる

ゲルハルト・シュタイデルの仕事を追う



『世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅 』


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妥協のない絶対的な美意識と価値基準を持ち、

瞬時に一切の迷いなく判断し、

その価値基準は本作りにおいても経営においても全くブレることがない


それが世界一美しい本を作る秘訣であり、

世界の一流のクライアントから信頼を得る秘訣であり、

理想を追い求めてかつ経済的にも成り立つ秘訣であり、

シュタイデルさんが常人と一線を画している点である思いました





写真の並べ方、サイズ、色調、構成、写真集のタイトル、字体、

紙質、インクの種類、製本方法、印刷部数

無限の組み合わせがある中で、

全てについて1ミリの迷いなく瞬時に判断するその素早さにまず驚いた


さらに全ての選択について明確に、なぜこの方が良いのか、

知識と感覚と論理を用いて根拠を説明することができる


いかにクライアントに"シュタイデルに任せたら最高の仕上がりになる"

と思わせるか、そこが本作りのプロの真骨頂であるな、と思いました


しかしただの理想主義者ではない

最高の品質でコストも最高にかかる案だけでなく、

コストを考慮した代案A.B.Cも提案できる

どの案に対しても客観的にメリット・デメリットを明示し、

クライアントが決めるべきところはクライアントに任せ、自分は一切口を出さない

だからシュタイデル氏はただの芸術家ではなくプロの仕事人でもある





彼の一貫した態度は本作りだけでなく、

その仕事の方法にも現れている


予定をころころ変更するクライアントには

こちらがそちらの予定に合わせる都合は無い、とはっきり断る


なるべく早く作って欲しいと依頼してくる新しいクライアントには、

次の予約が取れるのは2013年か2014年になる。それで無理なら結構だ

と明示する(ちなみに撮影は2009年から2010年)


仕事の依頼は2年3年先まで埋まっているが、

量より質を重視するためにこれ以上印刷機を増やす気は無いと言うその姿勢


どれだけ忙しくとも仕事は必ずクライアントと直接会って進める


より多く儲けることや効率、楽さ速さを求めていない

これは本当に美意識が無いとできないことだと思う



ちょっと質を落とせば、かなりのお金が返ってくる場合、

少しのマイナスで大きなプラスなら足し算するとプラスになる気になってしまう

しかしそこで一番大切な部分を失ってしまうことになる

小さな選択によって気づかぬ内に魂を削ってしまうこと

多々あると思う



しかしシュタイデル氏の行動、判断、選択は全て一貫して

"美しい本を作ること"

を基準に行なわれている

利益にも人間関係にも一般常識にも流されない自分の基準を持って判断する

そういう生き方にこそ芸術を感じました




芸術性と経済性は両立できない、どちらかで妥協が必要だ

というのが社会の通念ですが

最高の理想を追求し、かつ商業的にも成り立つ素晴らしい例がここにありました



仕事をする全ての人、必見の一本です
by 96770 | 2013-10-31 01:32 | シネマテーク
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